Valve Academy

我々循環器内科医、特にカテーテル専門医は日常診療において心臓弁膜症の診断、治療にしばしば関わることがあり、その治療選択肢は昨今飛躍的に増えております。治療の際には患者さん個々の病状を考慮し、術式それぞれの利点、欠点を的確に理解した上で選択しなければなりません。特に心臓弁膜症に対するカテーテル治療が開発されてからは、いかに低侵襲に治療するかも念頭に入れなければならず治療方針に苦慮することがしばしばあります。
私は2016年に大動脈弁閉鎖不全で心不全症状が急激に悪化した50代男性の患者さんを担当し、治療法に関して心臓外科に相談したところ勧められた治療法は人工弁(機械弁)置換術でした。当時40代後半であった私は「もし自分が患者さんだったら?」という思いから「なんとか機械弁を避ける方法がないか?」と考え、情報収集し尾崎重行先生(東邦大学大橋病院 心臓血管外科教授)に辿り着きました。突然メールで手術依頼したにも関わらず、ご快諾され執刀して頂きました。その患者さんは今でも心不全、大動脈弁逆流はなく、抗凝固薬内服なしで外来通院されておられます。
推定患者数200万人以上、手術が必要とされる患者さんは年間1万人いると言われている心臓弁膜症の心臓外科治療で画期的な方法で立ち向かう尾崎重之先生は2007年国内で初めて「自己心膜」を用いた大動脈弁形成術を確立しました。AVNeo (Aortic Valve Neo-Cuspidization)と呼ばれるこの手術法は生体との適合性の良さ、経済的な負担が小ささ、手術後の生活上の不便の少なさなどのメリットがあり、新しい大動脈弁治療として世界からも注目されています。しかし国内ではまだまだ普及しておらず、長期成績が発表されつつあるこれからの治療の一つです。
一方近年弁膜症に対するカテーテル治療の発展も目を見張るものがあり、2013年に本邦にTAVI(Transcatheter Aortic Valve Implantation)が導入され大動脈弁疾患に対する治療法の選択肢が増えております。しかしTAVIにも問題点があり人工弁よりもはるかに高価であり、現状では適応は手術に耐えられないと判断された高齢の方に限定される。大動脈弁疾患に対する人工弁置換術は高額のため経済的に負担が大きく、耐久性、抗凝固剤内服などの問題点が指摘されております。
「Valve Academy」では、循環器内科と心臓外科の垣根を超えて積極的に“学ぶ”事が大事だと考えております。まずは大動脈弁弁膜症から開始し、将来的に全ての弁膜症における治療法を紹介し、弁膜症治療選択肢として、カテーテル治療、心臓外科治療、新しい治療法などそれぞれの利点、欠点、適応を専門家から学び、循環器内科医として患者さんに最適な治療を選択できるよう情報提供して行きたいと思っております。皆様のお困りの症例など、「Valve Academy」相談窓口に御入力して頂けると各エクスパートと一緒に治療方針の相談が可能です。是非お気軽にご利用下さい。
木村祐之(広島ハートセンター)
2023年1月1日
座長: | 木村祐之(広島ハートセンター) |
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顧問: | 尾崎重行(東邦大学大橋病院 心臓血管外科教授) |
講師: | 山本真功(豊橋/名古屋/岐阜ハートセンター) 樋上裕起(大津赤十字病院) |
