IVLの適応と限界について論理的に考える
海外に遅れをとりましたが、本邦でもついにIVLが上市されました。現時点ではステント再狭窄での使用やロータブレーター、OASとの併用は認められていませんが、その使用が急速に拡大しています。IVLは厚い石灰を切削せずに低圧でフラクチャーを形成することができるため、slow flow/no flowのリスクや血管損傷のリスクが低いことが知られています。ただし、実際にどのような臨床的局面で使用したらいいのか、まだわからない点も多いと思います。
本邦ではOCTなどのイメージングデバイスを使用した石灰化治療が普及しています。一方海外でのIVL使用は主にアンギオガイド下ですから、今後本邦でOCTガイド下のIVL症例が蓄積すればこれまで得られなかった多くの知見が得られることでしょう。今回は北川先生に実際にIVLで治療した症例とそれをもとにした考察を提示していただきました。IVLの利点、欠点を熟知した上で、適した症例に、適した局面で使用していきましょう。
下地 顕一郎(済生会宇都宮病院)
IVLの適応と限界について論理的に考える
心臓血管センター金沢循環器病院 心臓血管カテーテル室長北川 勝英
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症例1(私の最初の症例です)
76歳男性労作性狭心症 維持透析中
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OCT所見に基づいた石灰化スコアは最大石灰化角度2点、厚み1点、長さ1点の計4点でした。
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*実症例から見えるIVLの特徴①
既存のバルーン(Conventional balloon, Scoring balloon, Cutting balloon)では見られにくい特徴的なFracture像が石灰化病変に生じます。
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*実症例から見るIVLの特徴②
IVL後(ステント留置前)の枝の閉塞が起こりえます。
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IVL後(ステント留置前)の枝の閉塞の機序として
①Calcium volumeが減らないままFractureして広がることで、側枝をふさいでしまう。
②Microfractureにより石灰化が崩れるように広がることも関与しているかもしれない。
などが考えられます。
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IVL症例120例を解析したCADⅡではIVL後にNonQ-wave MIが5.9%発生しています。
Circulation: Cardiovascular Interventions. 2019;12:e008434 Ziad A Ai et, al Safety and Effectiveness of Coronary Intravascular Lithotripsy for Treatment of Severely Calcified Coronary Stenoses: The Disrupt CAD II Study
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ちなみにRotablatorのROTAXUS Trialは4.2%, OASのORBITⅡTrialは9.8%のNon Q-wave MI発生が報告されています。
末梢塞栓の頻度が低いはずのIVLでなぜこのような高い頻度でNon Q-wave MIが起こるのでしょうか?
Non Q-wave MIの発生機序はside branch occlusionが原因である可能性があるのではないでしょうか?
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*実症例から見えるIVLの特徴③
Calcium Volume reduction/Debulkingができないデバイスです。
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IVLは石灰のVolume reductionを行わずとも従来より厚く、ARCの小さな石灰にもFractureを形成できてしまうデバイスです。
このためDistal embolismを機序とするslow flowやno flowの頻度は極めて低いです。
一方で
①. Calcium Volumeを減らさないことにより血管の限界拡張に配慮しなければいけない点
②. 偏心性石灰化病変において血管の中心をとれない点
はこのデバイスのデメリットと考えられます。
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Concentricな石灰にRA 2.0mmのburrで切削を行った場合
血管径3.0mm、MLD1.0mmのConcentricな高度石灰化を伴う狭窄、石灰化のARCが270°厚さ1000μmの石灰化病変を想定します。
RA 2.0mm burrで切削すると内腔は2.0mmに開大、同時に石灰化の厚みはおよそ1000μm→500μmにVolume reductionされます。 その結果、Balloonにより十分Fractureできる状況となります。
対象血管径3.0mmに対して3.0mmのステントを留置し、MSA3.0mm弱を獲得、病変部の血管はStretchされてFinalizeされます。
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Concentricな石灰化に切削は行わずIVLのみを用いた場合
血管径3.0mm、MLD1.0mmのConcentricな高度狭窄、ARC270°厚さ1000μmの石灰化病変を想定します。
IVLは石灰化のVolume reductionをすることなく厚みが1000μmのままFractureを形成します。 たとえ複数のFractureを形成したとしても、石灰のVolumeは外膜内に残るため、血管は拡張されたStentと石灰すべてを受け止める形になります。
血管のstretchは最大4.5mmまで、とすると1000μmの石灰化厚を切削せずに両側に残しているため4.5mm-2x1000μm=2.5mmがステント拡張径の上限となってしまいます。
このように石灰のVolume reductionを行わないと、たとえFractureを作ったとしてもステント拡張を大きく制限します。
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Eccentricな石灰化にRA 2.0mmのburrで切削を行った場合
血管径3.0mm、MLD1.0mmのEccentricな、 ARC270°最大厚1500μmの石灰化病変な高度狭窄、 Wire Biasも良好な状況を想定します。
切削によって2.0mmの内腔が獲得できる。内腔はWire biasに従って血管の中心に寄ります。 同時に石灰化は約1500μm→500μm程度にreductionされ、バルーン拡張により十分Fractureができる厚みとなります。
血管は4.5mm まで安全にStretch可能ですから、4.5mm-2x 500μm=3.5mmとなり、対象血管に合わせて3.0mmのステントを留置、拡張することは十分可能です。
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Eccentricな石灰化に切削を行わずIVLのみを用いた場合
血管径3.0mm、MLD1.0mmのEccentricな高度狭窄、ARC270°最大厚1500μmを想定します。
たとえFractureを形成したとしても、CalciumのVolumeは外膜内に残存、血管は拡張されたStentと石灰をすべて受け止める形になります。 さらにRAを行ったときのように血管の中心を取ることはできず、偏心性の石灰として残ってしまいます。
この場合も4.5mm-1500μm=3.0mmとはなりますが1500μmの石灰化を偏側に残した場合、石灰化の対側のみをStretchするため、この径までStretchすることは危険であり、ステント拡張は大きく制限されます。
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高齢の低心機能症例で重症多枝病変です。RCA CTOはJ-CTO Score:3点で、Antegrade approachのみで治療を完遂することは簡単ではありません。 LADからinterventional collateralを有するためLADの治療を先行する方針としました。
Strategy
LADは高度石灰化病変で何らかの石灰化処理を要するが、optimalな拡張を得るにはRAでは2.0mm以上のburr size upを要すると思われます。
しかし病変長も長いためRAによるSlow flow, no flowのリスクは非常に高く、 CTOへのDonor arteryを考慮すると術中に血行動態が破綻する可能性が高い。このためLADの治療にIVLを選択しました。
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System 6Fr TRI IVL: SHOCK WAVE 2.5/12mm
病変遠位部血管径3.0mm 近位部は3.5mm以上
1本目は通過性を重視して2.5mmを選択して遠位部から80パルス照射
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IVL拡張時の透視保存です。バルーンの低圧拡張後、加圧せずともパルス照射によって拡張がえられたことがわかります。
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IVL拡張時の透視保存です。バルーンの低圧拡張後、加圧せずともパルス照射によって拡張がえられたことがわかります。
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2本目は3.0mmを選択して近位部に80パルス照射しました。
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2本目は3.0mmを選択して近位部に80パルス照射しました。
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Balloon Cath: Wolverine2.5/10mm
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Balloon Cath: Wolverine2.5/10mm
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Balloon Cath: Wolverine3.0/10mm
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Balloon Cath: Wolverine3.0/10mm
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まとめ
IVLは従来のバルーンよりも、厚く、ARCの小さい石灰化病変にもFractureを形成することができるため、その機序から末梢塞栓のリスクが非常に低いデバイスです。
Debulking deviceのような末梢塞栓による心筋障害を発生しにくく、Slow flow/No flowのリスクは極めて低いため、重症心不全、重症多枝病変などのCHIP症例における石灰化処理の手段として非常に有用です。
一方でIVLにはDebulking効果はなく石灰のVolumeを減じることはできません。さらには偏心性の石灰化病変に対して血管の中心に内腔を作ることもできません。
そのためステント留置後も血管内に石灰のVolumeがそのままとどまることになります。石灰が偏心性であった場合は形態もそのままとどまることになります。このため血管の最大拡張径に配慮してステントの径を決定する必要があります。
その結果、獲得内腔径は小さくならざるを得ないことを想定しながらPCIを行う必要があります。
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