ごあいさつ
2009年より足掛け13年に渡り開催させて頂いてきたCTOHWSは、昨年その開催回数も130回を超えました。まずはその開催を快く受諾して頂いた各施設と施設責任者の先生、実施に際してサポート頂いた事務方やカテ室スタッフに改めて御礼申し上げます。このような形式のワークショップは実際に手技を行う若手医師の熱意だけでは駄目で、「教育」という極めて重要な理念に共感支持頂ける施設内の上級医師の先生方の存在があって初めて成立します。そういう意味で過去の実施リストに挙げた御施設は、その地域における将来の医療をも見越して活動されている特筆すべき医療機関であると確信しております
私が13年前にこの企画を思い立った時には既に日本の各地域でライブデモンストレーションが行われるようになっていました。私もその中のイチ術者でありましたが、いつの頃からか「私がただ手技を見せる事でどれだけ教育的効果があるのだろうか?」と毎回自問するようになりました。一方で同じ時期、日本発のCTO技術が広く海外でも普及するにつれ、限られた施設にCTO患者が集中するスタイルの海外では必然的に限られた術者の経験値が俄かに高くなり、その結果現在では世界の各地にCTOエキスパートが存在しています。本邦ではCTO治療が既に広く拡がっていたため、逆にイチ術者の、特に有志ある若い先生方の経験値は限りあるものとなっており、その状況は現在も同じと言っていいでしょう。勿論、経験値が全てではありません。でも「観る」事より「自分でやる」事によって得られるものは決して少なくないのがPCIです。では日本がCTO治療において海外から「置いてけぼり」にならないためにはどうすればいいのか?それが私の大きな命題でした。そこでProctorshipに思い至りました。更に大事なイチ症例を経験値として大事にするために、術者と同じ世代の観衆にそれを「共有」してもらう事にしました。オーディエンスは術中自分が直面するのと同じような岐路に立たされた時、術者がどういう指導を受け次のステップに進む事ができるのか?それを吸収出来るようなスタイルにしました。
Proctorshipが科学的に意味あるのか無いのか私も不明でしたが、当院の山本真功先生が2017年に論文にしてくれました()。細かい内容はそれを参照して頂くとして、要するにCTO成功率に経験値は関係無く、術中如何に正しい判断ができるか?が重要である事が証明されました。CTOエキスパートは神の手を持ってるなどという話は迷信です。エキスパートは経験値も踏まえて正しい判断力を持っているだけなのです。若い先生方は残念ながら経験値は高くありませんが、正しい判断さえ指導して貰えればCTOを成功に導く事は決して難しい事では無いのです。そしてその判断力を、その理論的な根拠と共に学習してもらうのがCTOHWSです。
昨今は色々な情報を入手出来る時代で、その理論的根拠となる資料も簡単に集めれるようになり、若い先生方の「知識」は多くなっています。なのでワークショップ中も初期の頃のように一から手取り足取り指導する必要は無くなって来ました。もし今後の課題を挙げるとすれば「手技の質の向上」に尽きると考えています。世界中を見渡しても既に臨床的に適応のあるCTOの手技成功率は90%を超えています。エキスパートなら95%以上でしょう。要するに今は「開けるのは当たり前」の時代です。次は「如何に開けるか?」が問われ始めています。昨今ブームの色んなアルゴリズムは勿論、その一助になるでしょう。しかしアルゴリズムはあくまで大まかな道標に過ぎません。個々の患者様の臨床状態とCTO病変形態を含めた冠動脈全体の構造を俯瞰的に把握し、最も「的確な」手技を行う事が重要です。本ワークショップはその新しい目標到達のために今後とも有意義な研究会であり続けたい、と今改めて考えているところです。
皆様におかれましてはどうぞ本趣旨を御理解頂き、引き続き御協力と御支援を宜しくお願い申し上げます。「人を遺す」ために。
土金悦夫 (豊橋ハートセンター)
2021年4月